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近年の研究から、嗅覚機能の低下と以降5年間の死亡率との間には高い相関があることがわかってきました。嗅覚がなぜこのような兆候を示すのでしょうか?本WGでは、基礎科学の立場から嗅覚の重要性を科学的に検証するとともに、アカデミアと企業との連携のもと嗅覚を用いたQOLの向上を目指し、人々の健康で文化的な生活の営みに貢献します。

”匂い”と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?食欲をそそるご飯やパンの匂い、さわやかな花や木の匂い、官能的な香水の匂い、我々の生活は様々な匂いによって彩られています。

 

ある匂いを嗅いだとき、遠い昔の記憶が甦ってきた経験はないでしょうか?嗅覚は、五感の中でも進化的に古い感覚であり、他の感覚に比べ記憶や情動と密接な関わりがあることが知られています。古代エジプト、プトレマイオス王朝最後の女王クレオパトラは、匂いの持つこの特殊な力に気づき、バラの香りを用いて古代ローマの英雄たちを虜にし、権力の座についたとさえいわれています。

匂い物質は、分子量が20から400程度の揮発性の低分子化合物です。匂い物質は鼻腔の奥に存在する嗅上皮という場所に位置する神経細胞によってキャッチされます。匂いの神経細胞は、嗅覚受容体と呼ばれる匂いのセンサーを発現しており、それが匂い物質を補足し、電気信号へと変換することで脳へと情報を伝達します。 

私たち生物は、数十万種類もの匂い物質を高感度にかつリアルタイムで検出することができます。この性能は、既存の如何なる工学センサーよりも優れています。これに倣って、現在世界中で生物の匂い受容のメカニズムに立脚したデジタル匂いセンサーの開発が進められています。

さらに、昨今の新型コロナウイルス感染に伴う嗅覚障害に見られるように、近年の研究から嗅覚と疾患との間に強い関連があることが指摘されてきています。中でも、アルツハイマー病型認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患の初期症状として嗅覚機能低下はよく知られています。さらに、高齢者の嗅覚機能の低下は、以降5年間の死亡率と高い相関があることもわかってきました。しかしながら、なぜそのような関連が生じるのかはわかっていません。

このような状況を鑑み、本WGでは、“匂い”という言葉をキーワードにアカデミア、企業に在籍する理学、医学、工学、情報科学などの様々なバックグランドを持った専門家を結集して、学際的な連携を構築します。生物の嗅覚の理解を深めるとともに、そこから得られた知見を工学的に応用した嗅覚センシング、ディスプレイを開発し、さらには匂いによる脳、全身への働きかけを通じた疾病予防方策の確立を目指します。これにより、嗅覚を用いたQOLの向上を目指し、人々の健康で文化的な生活の営みに貢献します。


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