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わたしたちは生まれてから死ぬまでに実に9万回も食事をしますが、

食べものに味がない人生が想像できるでしょうか。

食事は身体をつくる栄養を摂るためだけではなく、おいしいという感情、

つまり味覚がもたらす満足感や幸福感は豊かな生活に欠かせません。

 

一方、おいしい食べものにあふれた飽食の現代では味覚がわたしたちの健康をおびやかす一因ともなっています。甘いもの、しょっぱいもの、脂っこいもの。これらの食べ過ぎががん、糖尿病、循環器疾患に代表される生活習慣病の発症に深く関与することは今や医学の常識です。生活習慣病は国民医療費の実に3割、死亡者数の6割を占めており、健康な食生活は公衆衛生上の課題です。実際に、国民の健康増進および超高齢化社会での健康寿命の延伸のための我が国の基本方針「健康日本21」においても食生活の改善に重点が置かれています。

しかし、例えば減塩は高血圧やがんなど幅広い疾患に対する予防効果が知られますが、日本人の食塩摂取量10gはWHOの定める基準量5gを遥かに上回っています。

塩に限らず砂糖や脂質の量を減らすことは食事を味気なくするので容易ではなく、

“おいしく健康的な食生活”を実現する技術が求められています。

 

味は、口に含んだ食べものや飲みものに含まれる味物質(みぶっしつ)と呼ばれる

化学物質が、舌にある味蕾(みらい)を構成する感覚細胞である味細胞(みさいぼう)を刺激することをきっかけとして感じます。味細胞は味物質の情報を電気信号に変換して神経を通じて脳へと送ります。脳がこの電気信号を解析することでわたしたちは味を感じるのです。近年、舌での味覚受容に関わる遺伝子群が明らかとなりつつあり、これらの新たな科学的知見はわたしたちの味覚をコントロールする鍵として注目されています。

 

さらに近年、腸や気道などの舌以外の臓器にも味細胞と似た働きをする細胞が見つかり、これらの細胞の全身のエネルギー代謝調節、脳機能、感染を防ぐ役割など全身的役割が注目されています。このように、今や味覚研究は全身の問題として認識されつつあります。

 

以上のように、食事が体や心に及ぼす良い影響を残しつつも生活習慣病を予防

するための鍵は味覚の理解と応用にあります。さらに来たるSociety5.0の時代、

情報通信技術に味覚をのせて遠隔地に伝える技術が教育、エンターテインメント、

ショッピングなどの分野に大きな変化をもたらし、味覚の個性を決定する個々人の

ゲノム情報、食嗜好パターンなどビッグデータとAIを利用したテーラーメイドの

栄養指導が国民の健康を支えることが期待されています。また、味覚は他の感覚、

見た目(視覚)、匂い(嗅覚)、音(聴覚)、食感(触覚)、さらには文化とも

切り離すことができません。今後、医学、脳科学、心理学、食品科学、薬学、情報工学、文化学などの研究者と国内企業の共創により、我が国発の食品素材や技術の開発を促進して国際的競争力を高めていく必要があります。本WGでは、味覚研究の推進及びその成果の社会還元を通じておいしい食事とともにすべての国民が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会を目指して、味覚を基軸とした活動を進めていきます。

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